結論から言います — 「なぜその保存方法なのか」を理解すれば全部つながる
危険物取扱者(とくに甲種)の試験では、「この物質の保存方法は?」「水をかけたらどうなる?」という問題が繰り返し出題されます。
でも、全6類の物質をバラバラに暗記しようとすると、すぐにごちゃごちゃになりますよね。「黄りんは水中?灯油中?」「ナトリウムはどっち?」……そんな混乱を経験した方も多いのではないでしょうか。
この記事では、全6類の保護液・貯蔵方法・水との反応を"横断的"に整理します。物質ごとに「なぜその方法なのか」という理由をセットで覚えれば、丸暗記から卒業できますよ。
水中保存する物質 — 空気に触れたら自然発火するから水で遮断
まずは「水の中に沈めて保存する」物質から見ていきましょう。意外と数は少なくて、覚えるのは2つだけです。
| 物質名 | 分類 | 水中保存の理由 |
|---|---|---|
| 黄りん | 第3類(自然発火性のみ) | 空気中で約50℃で自然発火。水とは反応しないので、水中に沈めて空気を遮断する |
| 二硫化炭素 | 第4類(特殊引火物) | 引火点 −30℃、発火点90℃と極めて引火しやすい。水より重い(比重1.26)ので水中に沈む |
ここがポイント!
黄りんは第3類のなかで唯一「自然発火性のみ」の物質です。禁水性がないからこそ水中保存ができるわけですね。試験では「黄りんは禁水性物質である → ×」という引っかけが定番です。
二硫化炭素は第4類(引火性液体)ですが、水に溶けず・水より重いという性質があるため、水中に沈めて蒸気の発生を抑えます。発火点がたった90℃なので、蒸気配管の熱でも発火する危険があるくらいです。
灯油・鉱物油中に保存する物質 — 水と激しく反応するアルカリ金属
水中保存の真逆で、「水に触れたら危険!」な物質は灯油や鉱物油の中に保存します。代表格はアルカリ金属たちです。
| 物質名 | 保護液 | 理由 |
|---|---|---|
| ナトリウム(Na) | 灯油 | 水と反応してH₂(水素)を発生し発火。比重0.97で灯油に沈む |
| カリウム(K) | 灯油 | Naより激しく水と反応。比重0.86で灯油に沈む |
| リチウム(Li) | 鉱物油(灯油は×) | 比重0.53と極めて軽く、灯油(比重約0.80)に浮いてしまう → 空気に触れて危険 |
リチウムだけ「鉱物油」な理由
ナトリウムやカリウムは灯油に沈むので灯油中保存でOKです。しかしリチウムは全金属中で最も軽い(比重0.53)ため、灯油にプカプカ浮いてしまいます。浮いたら表面が空気に触れるので意味がありません。
そこでリチウムは灯油より比重が軽い鉱物油(流動パラフィンなど)を使います。……と言いたいところですが、実際には鉱物油の中に沈めるというより、比重の軽い鉱物油で液面を覆って空気を遮断するのがポイントです。
試験での引っかけは「リチウムは灯油中に保存する → ×(鉱物油が正解)」です。Na・KとLiの保護液の違いは頻出ですよ!
不活性ガス封入 — 液体でも空気でもダメな超危険物質
保護液では対応できない物質もあります。空気にも水にも反応する物質は、不活性ガス(窒素やアルゴン)で容器内を満たして保存します。
| 物質名 | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|
| アルキルアルミニウム | 第3類(両方) | 空気中で自然発火+水と爆発的に反応。第3類で最も危険とされる物質 |
| アルキルリチウム | 第3類(両方) | 空気中で自然発火+水と激しく反応。不活性ガスで密封保存 |
「両方」というのは「自然発火性」と「禁水性」の両方を持つという意味です。空気に触れれば発火し、水をかけても爆発的に反応する――つまり保護液にも水にも漬けられません。唯一の方法が不活性ガスで空気を追い出して密封することなんですね。
ちなみにアルキルアルミニウムは、ハロゲン化物の消火剤(ハロン等)にも激しく反応するため、消火方法が極めて限定される厄介な物質です。乾燥砂で窒息消火するのが基本です。
湿潤保存(水やアルコールで湿らせる)— 乾燥すると爆発する物質
ここまでは「空気を遮断する」「水を遮断する」という話でしたが、逆に「乾燥すると危険だから、わざと湿らせておく」物質もあります。第5類(自己反応性物質)に多いパターンです。
| 物質名 | 湿潤剤 | 乾燥すると? |
|---|---|---|
| ニトロセルロース | 水またはアルコール | 衝撃・摩擦で急激に分解・爆発の危険。湿らせることで感度を下げる |
| ピクリン酸 | 水 | 乾燥状態では打撃・摩擦に敏感で爆発しやすい。さらに金属と反応してピクリン酸塩(爆薬級)を生成 |
ニトロセルロースは、含有する窒素量(窒化度)によって危険性が変わります。窒化度が高いもの(強綿薬)は火薬として使われるほど。だからこそ水やアルコールで常に湿らせて、衝撃感度を下げておくのが鉄則です。
ピクリン酸は金属容器と接触するとピクリン酸金属塩を作り、これが元のピクリン酸よりさらに爆発しやすいという厄介な性質があります。保存容器にも注意が必要で、ガラスやプラスチック製の容器を使い、水で湿らせた状態で保管します。
密栓禁止の物質 — ガスが溜まって容器が破裂する
普通、危険物は「密栓して保存」が当たり前だと思いますよね? でも密栓してはいけない物質も存在します。理由はシンプルで、保存中にガスが発生するからです。
| 物質名 | 分類 | 密栓禁止の理由 |
|---|---|---|
| 過酸化水素 | 第6類(酸化性液体) | 分解して酸素(O₂)を発生。密栓すると容器内圧力が上昇し破裂の恐れ |
| MEKPO(メチルエチルケトンパーオキサイド) | 第5類(自己反応性物質) | 常温でもゆっくり分解してガスを発生。密栓すると容器破裂の危険 |
過酸化水素は身近なもので言えばオキシドール(消毒液)の成分です。あのシュワシュワは酸素が出ている証拠。高濃度の過酸化水素を密栓したら、発生した酸素で容器がパンパンに膨れて最悪破裂します。だから通気性のある栓(ガス抜き栓)を使うのが基本です。
MEKPOは有機過酸化物の一種で、FRP(繊維強化プラスチック)の硬化剤として使われます。こちらも保存中にガスが発生するため、密栓は厳禁。冷暗所で通気性を確保して保存します。
水と反応する物質 — 横断一覧で整理しよう
甲種試験で非常によく問われるのが「水と反応して何が起きるか?」という問題です。全6類にまたがるので、横断的に整理しておきましょう。
第3類の禁水性物質 — 水と反応して可燃性ガスを発生
| 物質 | 水との反応 | 発生ガス |
|---|---|---|
| Na, K, Li | 激しく反応(Kは炎を上げて反応) | 水素(H₂) |
| アルキルアルミニウム | 爆発的に反応 | 水素(H₂)+メタン等 |
| 水素化ナトリウム | 水と反応してNaOH生成 | 水素(H₂) |
| りん化カルシウム | 水や湿気で分解 | ホスフィン(PH₃):有毒で自然発火性 |
| 炭化カルシウム | 水と反応してCa(OH)₂生成 | アセチレン(C₂H₂):可燃性ガス |
第3類の禁水性物質は水と反応して可燃性ガス(または有毒ガス)を発生するのが共通の特徴です。ポイントは「何のガスが出るか」まで覚えること。とくにりん化カルシウム → PH₃(ホスフィン)と炭化カルシウム → C₂H₂(アセチレン)は甲種で頻出です。
炭化カルシウムは別名「カーバイド」とも呼ばれます。昔はカーバイドランプ(アセチレンランプ)の燃料として使われていました。水を垂らすとアセチレンガスが出て、それに火をつけて明かりにしていたんですね。
第1類の無機過酸化物 — 水と反応して酸素を発生+発熱
| 物質 | 水との反応 | 注意点 |
|---|---|---|
| 過酸化ナトリウム(Na₂O₂) | 水と反応 → NaOH+O₂発生 | 発熱反応+酸素が燃焼を助長。注水消火は禁止 |
| 過酸化バリウム | 水と反応 → Ba(OH)₂+O₂発生 | 過酸化ナトリウムと同様の反応 |
無機過酸化物の反応は少し特殊です。第3類のように可燃性ガスが出るのではなく、酸素(O₂)が発生して、しかも発熱するというダブルパンチ。酸素は火を燃え広がらせる「助燃性ガス」なので、火災時に水をかけると逆効果になります。
ちなみに第1類は「酸化性固体」ですが、すべてが水と反応するわけではありません。注水消火が禁止なのは無機過酸化物とアルカリ金属の過酸化物であって、塩素酸カリウムや硝酸カリウムなどは大量の水で冷却消火が可能です。
第6類のハロゲン間化合物 — 水と反応してHFを発生
| 物質 | 水との反応 | 注意点 |
|---|---|---|
| 三フッ化臭素(BrF₃) | 水と激しく反応 → HF発生 | HF(フッ化水素)は猛毒。注水消火は絶対禁止 |
| 五フッ化臭素(BrF₅) | 水と激しく反応 → HF発生 | 三フッ化臭素と同様。乾燥砂で消火 |
| 五フッ化よう素(IF₅) | 水と反応 → HF発生 | 反応は上2つよりは穏やかだが、同様にHF発生 |
ハロゲン間化合物は第6類(酸化性液体)に分類されますが、第6類の中で唯一「注水消火が禁止」の物質群です。水と反応してHF(フッ化水素)を生じます。HFは皮膚に触れると骨まで侵す猛毒で、吸入しても極めて危険です。
第6類の他の物質(過塩素酸、過酸化水素、硝酸)は大量の水で希釈・冷却する消火が基本ですが、ハロゲン間化合物だけは例外中の例外。乾燥砂で窒息消火が原則です。
注水消火が禁止の物質 — 全6類から横断整理
ここまでの内容を踏まえて、「水をかけてはいけない物質」を全6類から横断的にまとめましょう。これは甲種試験で非常に重要なテーマです。
| 類 | 対象物質 | 注水禁止の理由 |
|---|---|---|
| 第1類 | 無機過酸化物(過酸化ナトリウム等) | 水と反応してO₂発生+発熱 → 燃焼を助長 |
| 第2類 | 金属粉(アルミニウム粉・亜鉛粉・マグネシウム等) | 高温の金属が水と反応してH₂発生 → 水素爆発の危険 |
| 第3類 | 禁水性物質(Na, K, Li, アルキルアルミニウム等) | 水と反応して可燃性ガス(H₂等)発生 → 発火・爆発 |
| 第6類 | ハロゲン間化合物(三フッ化臭素等) | 水と反応して猛毒のHF発生 |
覚え方のコツ
注水消火が禁止の物質は、「水と接触したとき、何か危険なものが発生する」という共通点があります。
- 第1類の無機過酸化物 → 酸素(O₂)が出て火を大きくする
- 第2類の金属粉 → 水素(H₂)が出て爆発する
- 第3類の禁水性物質 → 可燃性ガス(H₂やPH₃やC₂H₂)が出て発火する
- 第6類のハロゲン間化合物 → 猛毒ガス(HF)が出る
つまり、「水 + 危険物 = 危険なガスが出る」パターンの物質は注水禁止と覚えておけばOKです。逆に言えば、水と反応しない物質(硝酸カリウム、硫黄、一般的な第4類など)は、大量の水で冷却消火するのが基本になります。
ただし第4類は水に溶けないものが多いので、水をかけても浮いて広がってしまいます。第4類の消火は泡消火剤やCO₂消火剤が基本ですね。詳しくは「「第4類の消火方法まとめ」」で解説しています。
保護液・貯蔵方法の全体まとめ図解
試験に出る!引っかけパターン5選
→ 誤り。黄りんは自然発火性のみ(禁水性なし)。だから水中保存ができる。第3類で禁水性がない唯一の物質として超頻出。
→ 誤り。Li比重0.53 < 灯油0.80 → 灯油に浮いて空気に触れる。鉱物油で保存。Na/K(灯油OK)との違いが頻出。
→ 誤り。分解してO₂を発生 → 密栓すると容器破裂。通気性のある栓(ガス抜き栓)を使用。MEKPOも同様に密栓禁止。
→ 誤り。発生するのは酸素(O₂)。Na₂O₂ + H₂O → NaOH + O₂(発熱)。酸素が燃焼を助長するため注水消火は禁止。
→ 誤り。ハロゲン間化合物(BrF₃等)は水と反応して猛毒のHFを発生 → 注水禁止。第6類の中で唯一の例外。乾燥砂で消火。
試験直前チェック
✔ 灯油保存:Na(0.97) + K(0.86) — 灯油に沈む
✔ 鉱物油保存:Li(0.53) — 灯油に浮くため鉱物油
✔ 不活性ガス封入:アルキルAl + アルキルLi(空気も水もNG)
✔ 湿潤保存:ニトロセルロース + ピクリン酸(5類・乾燥→爆発)
✔ 密栓禁止:過酸化水素(O₂発生) + MEKPO(分解ガス)
✔ 注水禁止:無機過酸化物(1類) + 金属粉(2類) + 禁水性(3類) + ハロゲン間(6類)
✔ 反応ガス:Na/K→H₂ / りん化Ca→PH₃ / 炭化Ca→C₂H₂ / Na₂O₂→O₂
理解度チェック!3問で確認しよう
ここまでの内容を理解できたか、3問のクイズで確認してみましょう。
【問題1】保護液の選択
次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)黄りんは灯油中に保存する。
(2)ナトリウムは水中に保存する。
(3)リチウムは灯油中に保存する。
(4)二硫化炭素は水中に保存する。
【問題2】水との反応
次の物質と、水との反応で発生するガスの組み合わせとして、誤っているものはどれか。
(1)りん化カルシウム ── ホスフィン(PH₃)
(2)炭化カルシウム ── アセチレン(C₂H₂)
(3)過酸化ナトリウム ── 水素(H₂)
(4)ナトリウム ── 水素(H₂)
【問題3】注水消火の可否
次の物質のうち、火災時に注水消火が適切なものはどれか。
(1)過酸化ナトリウム
(2)三フッ化臭素
(3)マグネシウム粉
(4)硝酸カリウム
まとめ — 「なぜその方法なのか」が理解のカギ
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 水中保存:黄りん(3類・自然発火性のみ)、二硫化炭素(4類・水より重い)
- 灯油中保存:ナトリウム、カリウム(禁水性・灯油に沈む)
- 鉱物油中保存:リチウム(灯油に浮くため鉱物油を使用)
- 不活性ガス封入:アルキルアルミニウム、アルキルリチウム(空気にも水にもダメ)
- 湿潤保存:ニトロセルロース、ピクリン酸(5類・乾燥すると爆発の危険)
- 密栓禁止:過酸化水素(6類・O₂発生)、MEKPO(5類・分解ガス発生)
- 注水消火禁止:無機過酸化物(1類)、金属粉(2類)、禁水性物質(3類)、ハロゲン間化合物(6類)
すべてに「なぜその方法なのか」という理由があります。理由とセットで覚えれば、試験で初めて見る選択肢が出てきても、理屈から正解を導き出せるようになりますよ。
全6類の横断知識は甲種合格のカギです。各類の個別記事もあわせて復習して、万全の状態で試験に臨みましょう!
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