溶液の性質は「溶かすと何が変わるか」がテーマ
甲種の「物理学及び化学」では、希薄溶液の性質(束一的性質)がよく出題されます。蒸気圧降下・沸点上昇・凝固点降下・浸透圧の4つは、どれも「溶質の粒子の数」だけで決まるという共通点があります。
身近な例でいうと、冬に道路にまく融雪剤(塩化カルシウム)や、車のラジエーターに入れる不凍液(エチレングリコール)は、まさにこの性質を利用したものです。
ここでは、それぞれの現象を「なぜそうなるのか」から丁寧に解説し、計算問題への対応力もつけていきましょう。
蒸気圧が↓
沸点が↑
凝固点が↓
溶媒が移動
電解質 → イオンの数を掛けて計算!
蒸気圧降下 ── ラウールの法則
結論から言います。純粋な溶媒に溶質を溶かすと、溶媒の蒸気圧が下がります。これが蒸気圧降下です。
なぜ蒸気圧が下がるのか?
液体の表面から分子が飛び出す(蒸発する)ことで蒸気圧が生まれます。ところが、溶質の粒子が液面に"居座る"と、溶媒分子が表面から飛び出せる面積が減ってしまいます。結果として、蒸発する溶媒分子の数が減り、蒸気圧が下がるわけです。
イメージとしては、プールの水面に浮き輪がたくさん浮いていると、水が蒸発しにくくなる ―― そんな感じです。
ラウールの法則
蒸気圧降下の大きさを定量的に表したのがラウールの法則です。
P = P₀ × x溶媒
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| P | 溶液の蒸気圧 |
| P₀ | 純溶媒の蒸気圧 |
| x溶媒 | 溶媒のモル分率(= 溶媒のmol ÷ 全体のmol) |
溶質を溶かすとx溶媒が1より小さくなるので、P < P₀ となります。つまり、溶質の量が多いほど蒸気圧は下がるということです。
ポイントは、蒸気圧降下の大きさは溶質の種類に関係なく、溶質粒子の数(mol数)だけで決まること。砂糖でも塩でも、同じmol数を溶かせば蒸気圧降下は同じです(ただし電解質は後述の通り注意が必要です)。
沸点上昇 ── 溶かすと沸点が上がる
結論から言います。溶質を溶かすと蒸気圧が下がるので、沸騰するためにはより高い温度が必要になります。これが沸点上昇です。
仕組みを理解しよう
液体が沸騰するのは、蒸気圧が大気圧(1気圧≒101.3 kPa)と等しくなったとき。蒸気圧が下がっているということは、大気圧に追いつくためにもっと温度を上げなければなりません。
純水の沸点は100℃ですが、水1 kgにショ糖を1 mol(342 g)溶かすと、沸点は約100.52℃に上がります。「たった0.5℃?」と思うかもしれませんが、試験ではこの微小な変化を計算で求める問題が出ます。
身近な例:不凍液(エチレングリコール)
車のラジエーターに使われる不凍液の主成分はエチレングリコールです。水にエチレングリコールを溶かすことで、凝固点を下げる(凍りにくくする)と同時に、沸点を上げる(オーバーヒートしにくくする)効果も得られます。
危険物との関連でいうと、エチレングリコールは第4類・第3石油類(水溶性)に分類される危険物。引火点111℃、沸点197.6℃の液体です。不凍液として身近に使われている物質が、実は危険物の一つ ―― これは試験でも問われやすいポイントです。
凝固点降下 ── 溶かすと凍りにくくなる
結論から言います。溶質を溶かすと、溶液の凝固点(固まる温度)が下がります。これが凝固点降下です。
なぜ凝固点が下がるのか?
液体が凍るとき、溶媒の分子が規則正しく並んで結晶を作ります。ところが溶質の粒子が混ざっていると、溶媒分子が結晶に加わるのを邪魔します。結晶化が妨害されるので、もっと温度を下げないと凍らない ―― というわけです。
身近な例:融雪剤(塩化カルシウム)
冬に道路にまかれる白い粒が塩化カルシウム(CaCl₂)。水に溶けると凝固点が下がり、路面の氷を溶かしてくれます。塩化カルシウムが強力な融雪剤である理由は、水に溶けるとCa²⁺と2Cl⁻の計3個のイオンに分かれるため、同じmol数の非電解質と比べて約3倍の凝固点降下効果があるからです。
同様に、食塩(NaCl)をまいても凝固点は下がりますが、NaClはNa⁺とCl⁻の2個に分かれるだけなので、CaCl₂のほうが効果的です。
ΔT = Km の公式と計算
沸点上昇・凝固点降下の大きさは、次の公式で計算できます。
ΔT = K × m
| 記号 | 意味 | 備考 |
|---|---|---|
| ΔT | 沸点上昇度 or 凝固点降下度(℃) | 温度変化の絶対値 |
| K | モル沸点上昇 or モル凝固点降下(℃・kg/mol) | 溶媒ごとに決まった定数 |
| m | 質量モル濃度(mol/kg) | 溶質のmol数 ÷ 溶媒の質量(kg) |
質量モル濃度とは、溶媒1 kgあたりの溶質のmol数です。モル濃度(溶液1 Lあたり)とは違うので注意してください。
水のモル沸点上昇・モル凝固点降下
| 定数 | 値 |
|---|---|
| モル沸点上昇 Kb | 0.52 ℃・kg/mol |
| モル凝固点降下 Kf | 1.85 ℃・kg/mol |
計算例:グルコース水溶液の凝固点
問題:グルコース(C₆H₁₂O₆、分子量180)36 gを水500 gに溶かした溶液の凝固点は何℃か?
解法:
① グルコースのmol数 = 36 ÷ 180 = 0.2 mol
② 質量モル濃度 m = 0.2 ÷ 0.5 = 0.4 mol/kg
③ ΔT = Kf × m = 1.85 × 0.4 = 0.74℃
④ 凝固点 = 0 − 0.74 = −0.74℃
グルコースは非電解質なので、溶けてもイオンに分かれません。そのままmol数を使えばOKです。
電解質の場合はイオンの数を考える
NaClのような電解質は、水中でNa⁺とCl⁻に分かれるので、粒子の数が2倍になります。CaCl₂ならCa²⁺ + 2Cl⁻で3倍です。このため、電解質の凝固点降下はイオンの数を掛けて計算します。
計算例:NaCl 5.85 g(分子量58.5)を水1 kgに溶かした場合
① mol数 = 5.85 ÷ 58.5 = 0.1 mol
② NaClは2個のイオンに分かれるので、実質の粒子数 = 0.1 × 2 = 0.2 mol
③ ΔT = 1.85 × 0.2 = 0.37℃(凝固点は−0.37℃)
浸透圧 ── 半透膜を通じた溶媒の移動
結論から言います。半透膜で仕切られた溶液と純溶媒があると、溶媒が濃度の低い側から高い側へ移動します。この移動を止めるために必要な圧力が浸透圧です。
半透膜とは?
半透膜は、溶媒の分子は通すけれど溶質の粒子は通さない膜のこと。身近な例でいうと、生卵の薄皮やセロハン膜がこれにあたります。
浸透のイメージ
U字管の中央に半透膜を張り、片方に砂糖水、もう片方に純水を入れると、純水側の水が砂糖水側へ移動していきます。砂糖水側の液面がどんどん上がり、純水側は下がる ―― この現象が浸透です。
液面の高さの差に相当する圧力が浸透圧であり、次の式で表されます。
Π = cRT(ファントホッフの法則)
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| Π(パイ) | 浸透圧(Pa または atm) |
| c | モル濃度(mol/L) |
| R | 気体定数(0.082 L・atm/(mol・K)) |
| T | 絶対温度(K) |
この式は理想気体の状態方程式(PV = nRT)と形がよく似ています。浸透圧も束一的性質の一つで、溶質の種類ではなく粒子の数で決まります。
コロイド溶液
ここまでは溶質が分子やイオンとして均一に溶けた「真の溶液」の話でした。ところが、もう少し大きな粒子が液体中に分散した状態もあります。これがコロイド溶液です。
コロイド粒子の大きさ
| 分類 | 粒子の大きさ | 例 |
|---|---|---|
| 真の溶液 | 約1 nm未満 | 食塩水、砂糖水 |
| コロイド溶液 | 約1〜100 nm | 墨汁、牛乳、にかわ |
| 懸濁液(けんだくえき) | 約100 nm以上 | 泥水、小麦粉を混ぜた水 |
コロイド粒子は目に見えないほど小さいですが、普通の分子やイオンよりは大きい ―― その「中間サイズ」ゆえに、いくつか特有の現象が現れます。
コロイドの特有現象
チンダル現象:コロイド溶液に横から光を当てると、光の通り道が明るく見える現象。粒子が光を散乱するためです。映画館でスクリーンに向かう光の筋が見えるのと同じ原理。真の溶液ではこの現象は起きません。
ブラウン運動:コロイド粒子が液中で不規則にジグザグ動き回る現象。溶媒分子がコロイド粒子に四方八方からぶつかることで生じます。1827年に植物学者ブラウンが花粉の微粒子で発見しました。
透析:コロイド溶液を半透膜に入れ、純水中に浸すと、小さなイオンや分子は膜を通って外に出ますが、大きなコロイド粒子は膜を通れません。この方法でコロイド溶液から不純物(電解質など)を取り除くことができます。腎臓の人工透析もこの原理の応用です。
凝析と塩析の違い(頻出!)
| 比較項目 | 凝析(ぎょうせき) | 塩析(えんせき) |
|---|---|---|
| 電解質の量 | 少量 | 多量 |
| 対象 | 疎水コロイド | 親水コロイド |
| 仕組み | 電荷が中和 → 沈殿 | 水和水が奪われる → 沈殿 |
凝析の例:川の水(粘土の疎水コロイド)が海に流れ込むと、海水中の塩分(電解質)によって粘土粒子が凝析して沈殿し、三角州(デルタ)ができます。豆乳(疎水コロイド)ににがり(MgCl₂)を加えて豆腐を作るのも凝析です。
塩析の例:石鹸の製造工程で、石鹸水(親水コロイド)に大量の食塩を加えて石鹸を分離させます。
試験では「少量の電解質 → 凝析(疎水コロイド)」「多量の電解質 → 塩析(親水コロイド)」の組み合わせが問われます。電解質の量と対象コロイドの種類をセットで覚えましょう。
危険物との関連
溶液の性質は、危険物の取扱いとも深く結びついています。
水溶性と非水溶性 ── 消火方法が変わる
第4類危険物には水溶性と非水溶性のものがあります。水溶性の危険物に普通の泡消火剤を使うと、泡が溶液に溶けて消えてしまいます。そのため、水溶性の危険物には耐アルコール泡(水溶性液体用泡)を使う必要があります。
| 区分 | 代表的な物質 | 泡消火剤 |
|---|---|---|
| 非水溶性 | ガソリン、灯油、ベンゼン、トルエン | 普通の泡消火剤でOK |
| 水溶性 | アセトン、エタノール、エチレングリコール | 耐アルコール泡(水溶性液体用泡) |
エチレングリコール ── 不凍液であり危険物でもある
先ほど沸点上昇のところで登場したエチレングリコールは、第4類・第3石油類(水溶性)に分類されます。指定数量は4,000 Lです。
自動車の冷却水(LLC = ロングライフクーラント)として日常的に使われていますが、引火点111℃なので加熱すれば引火の危険があります。また、毒性があり誤飲すると腎臓障害を起こす可能性がある物質でもあります。
甲種の試験では「不凍液に使われる物質は何か?」「エチレングリコールは第何類か?」といった形で出題されます。溶液の性質と危険物の知識を結びつけて覚えておきましょう。
凝固点降下の実用 ── 不凍液・融雪剤
凝固点降下の応用は試験でも問われるポイントです。
| 用途 | 物質 | 仕組み |
|---|---|---|
| 不凍液 | エチレングリコール | 水に溶かして凝固点を下げ、冷却水の凍結を防ぐ |
| 融雪剤 | 塩化カルシウム(CaCl₂) | 水に溶けて3個のイオンに分かれ、大きな凝固点降下を起こす |
まとめ ── 束一的性質の全体像
| 性質 | 何が起きるか | ポイント |
|---|---|---|
| 蒸気圧降下 | 溶媒の蒸気圧が下がる | ラウールの法則(P = P₀ × x溶媒) |
| 沸点上昇 | 沸騰する温度が上がる | 蒸気圧が下がった分、高温が必要 |
| 凝固点降下 | 凍る温度が下がる | 溶質が結晶化を邪魔する |
| 浸透圧 | 溶媒が濃い方へ移動 | Π = cRT |
これら4つの性質はすべて、溶質の粒子の数だけで決まります。溶質の種類には依存しない ―― だから「束一的(そくいつてき)性質」と呼ばれます。電解質の場合は、イオンに分かれた数で計算することを忘れないようにしましょう。
試験に出る!引っかけパターン5選
→ 誤り。束一的性質は溶質の種類に依存しない。粒子の数(mol数)だけで決まる。砂糖でも塩でも、同じ粒子数なら同じ効果。
→ 誤り。NaClはNa⁺+Cl⁻の2個のイオンに分かれるので粒子数は2倍。凝固点降下も約2倍になる。CaCl₂なら3倍。
→ 誤り。質量モル濃度=溶質mol÷溶媒kg。モル濃度=溶質mol÷溶液L。分母が違う。ΔT=Kmで使うのは質量モル濃度。
→ 誤り。少量で沈殿するのは凝析(疎水コロイド)。塩析は多量の電解質で親水コロイドが沈殿。量と対象をセットで覚える。
→ 誤り。真の溶液では粒子が小さすぎて光を散乱しない。チンダル現象はコロイド溶液でのみ観察される現象。
試験直前チェック
✔ 全て溶質粒子の数だけで決まる(種類は無関係)
✔ ΔT = K × m(質量モル濃度 = mol ÷ 溶媒kg)
✔ 水:Kb=0.52 / Kf=1.85
✔ 電解質は粒子数をイオン数で掛ける(NaCl→×2, CaCl₂→×3)
✔ 浸透圧:Π = cRT(ファントホッフの法則)
✔ 凝析=少量電解質→疎水コロイド / 塩析=多量電解質→親水コロイド
✔ エチレングリコール:第3石油類(水溶性)、不凍液の主成分
理解度チェック
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