甲種の物理学・化学(高度)

熱化学方程式とヘスの法則|計算例つきでわかりやすく解説|甲種危険物

結論から言います

化学反応にはかならずの出入りがセットになっています。ものが燃えれば熱が出るし、冷却パックをパキッと割れば冷たくなる――あれも立派な化学反応と熱の関係です。

甲種の試験では、この「反応熱」を熱化学方程式で表し、ヘスの法則を使って計算する問題が高確率で出ます。

ポイントを先に3つだけ押さえましょう。

  • 反応熱は「発熱ならプラス(+)、吸熱ならマイナス(−)」で表す
  • 熱化学方程式は通常の化学反応式と違い、物質の状態(固・液・気)と熱量(kJ)を書き込む
  • ヘスの法則=反応熱は「道順」に関係なく、出発点とゴールが同じなら合計は同じ

これだけ頭に入れたら、あとは具体例で理解を深めるだけです。では詳しく見ていきましょう!

反応熱とは? ――化学反応にともなう熱エネルギー

化学反応が起きるとき、結合が切れたりできたりします。その差し引きでエネルギーが余れば熱が出る(発熱反応)、足りなければ熱を吸い込む(吸熱反応)になります。

発熱反応と吸熱反応の違い

項目 発熱反応 吸熱反応
熱の動き 周囲に熱を放出する 周囲から熱を吸収する
反応熱の符号 +(正) −(負)
身近な例 ガソリンの燃焼、使い捨てカイロ 冷却パック(硝酸アンモニウム溶解)
温度変化 反応すると周囲の温度が上がる 反応すると周囲の温度が下がる

危険物を扱う現場で最も身近な発熱反応は燃焼です。ガソリンが燃えると大量の熱を放出する――これは発熱反応の代表例ですね。逆に、瞬間冷却パックをパキッと割ると冷たくなるのは、内部の硝酸アンモニウムが水に溶けるとき熱を吸収する(吸熱反応)からです。

反応熱の種類 ――燃焼熱・生成熱・溶解熱・中和熱

反応熱にはいくつかの「名前つき」があります。甲種試験では特に燃焼熱生成熱が頻出です。

名称 定義 ポイント
燃焼熱 物質1 molが完全燃焼するときに発生する熱量 必ず発熱(+)。燃焼だから当然ですね
生成熱 化合物1 molがその成分元素の単体から生成するときの熱量 発熱のものも吸熱のものもある
溶解熱 物質1 molが多量の溶媒に溶解するときの熱量 水酸化ナトリウム→発熱、硝酸アンモニウム→吸熱
中和熱 酸と塩基が中和して水1 molを生じるときの熱量 強酸+強塩基では約56.5 kJ/mol(ほぼ一定)

「燃焼熱」は名前のとおり燃やしたときの熱なので、常にプラス(発熱)です。一方「生成熱」は、ものによって発熱だったり吸熱だったりします。たとえば水(H2O)の生成熱は発熱ですが、一酸化窒素(NO)の生成熱は吸熱です。

溶解熱も同じで、水酸化ナトリウム(NaOH)を水に溶かすとビーカーが熱くなりますが(発熱)、冷却パックの硝酸アンモニウム(NH4NO3)は溶かすと冷たくなります(吸熱)。

熱化学方程式の書き方

熱化学方程式は普通の化学反応式と似ていますが、いくつかルールが違います。ここが試験で問われるポイントです。

普通の化学反応式との3つの違い

ルール 普通の化学反応式 熱化学方程式
矢印 (等号)
状態記号 書かないことが多い 必ず書く(気)(液)(固)
係数 最小の整数 分数OK(注目物質を1 molにするため)

具体例で見てみよう

炭素(黒鉛)の完全燃焼

C(固)+ O2(気)= CO2(気)+ 394 kJ

これを読み解くと――

  • 炭素(固体の黒鉛)1 mol と酸素(気体)1 mol が反応して、二酸化炭素(気体)1 mol ができる
  • そのとき394 kJ の熱が発生する(発熱なのでプラス)
  • つまり、炭素の燃焼熱は 394 kJ/mol

水素の燃焼

H2(気)+ 1/2 O2(気)= H2O(液)+ 286 kJ

注目してほしいのは酸素の係数が 1/2 になっている点です。これは「水素 1 mol の燃焼」に注目しているため。普通の化学反応式では「2H2 + O2 → 2H2O」と整数にしますが、熱化学方程式では着目物質を1 molにそろえるために分数を使います。

ちなみにこの式は「水の生成熱が 286 kJ/mol」とも読めます。H2(単体)と O2(単体)から H2O(化合物)が1 mol できているので、生成熱の定義にもピッタリ当てはまるわけです。

状態記号の重要性

なぜ(固)(液)(気)をわざわざ書くのでしょうか?

答えは簡単で、状態が違うと熱量が変わるからです。たとえば水素を燃やして「液体の水」を得るときと「水蒸気」を得るときでは、蒸発に必要なエネルギー分だけ熱量が異なります。

H2(気)+ 1/2 O2(気)= H2O()+ 286 kJ
H2(気)+ 1/2 O2(気)= H2O()+ 242 kJ

液体の水のほうが44 kJ 多いのは、水蒸気から液体に凝縮するときの熱(凝縮熱)の分です。だから状態記号を省略すると「どっちの値?」となってしまいます。試験でもここを問う問題が出るので要注意です。

ヘスの法則(総熱量保存の法則)

ヘスの法則は一言で言うと――

化学反応の反応熱は、反応の経路によらず、最初の状態と最後の状態だけで決まる。

つまり、AからBに行くのに「直行ルート」でも「遠回りルート」でも、トータルの反応熱は同じということです。

日常で例えると?

東京から大阪まで行くとき、新幹線で直行しても、名古屋で乗り換えても、移動距離(東京→大阪の直線距離)は変わらないですよね。ヘスの法則もこれと同じ発想です。途中でどんな寄り道(中間反応)をしても、出発点(反応物)とゴール(生成物)が同じなら、全体の反応熱は変わりません。

この法則はエネルギー保存則の一種です。もし経路によって反応熱が変わったら、ぐるぐる反応を回すだけで永久にエネルギーを取り出せることになる――これは明らかにおかしいですよね。だから経路に依存しないのです。

ヘスの法則がなぜ便利?

実験で直接測れない反応熱を、測れる反応の組み合わせから計算できるのが最大のメリットです。

たとえば「炭素から一酸化炭素(CO)を直接作るときの反応熱」は実験で測るのが難しい(CO2も一緒にできてしまう)。でも、「炭素→CO2」と「CO→CO2」の燃焼熱はそれぞれ測れます。ヘスの法則を使えば、この2つのデータからCOの生成熱を逆算できるわけです。

ヘスの法則 — 2つのルートで同じ熱量
直行ルート
C(固)→ CO₂(気)… 394 kJ
‖(ヘスの法則:合計は同じ)
遠回りルート(2段階)
C(固)→ CO(気)… 111 kJ(生成熱)
CO(気)→ CO₂(気)… 283 kJ(燃焼熱)
合計: 111 + 283 = 394 kJ ← 一致!

計算例でマスターしよう

計算例1:一酸化炭素(CO)の生成熱を求める

次の2つの熱化学方程式が与えられています。

① C(固)+ O2(気)= CO2(気)+ 394 kJ
② CO(気)+ 1/2 O2(気)= CO2(気)+ 283 kJ

求めたいもの: C(固)+ 1/2 O2(気)= CO(気)+ Q kJ

解き方

ヘスの法則から、①の反応は「C → CO → CO2」という2段階ルートでも同じ熱量になるはずです。

直行ルート(①): C → CO2394 kJ
遠回りルート: C → CO で Q kJ、CO → CO2 で 283 kJ

ヘスの法則より:Q + 283 = 394
Q = 394 − 283 = 111 kJ

したがって、COの生成熱は 111 kJ/mol です。

C(固)+ 1/2 O2(気)= CO(気)+ 111 kJ

計算例2:エタノール(C2H5OH)の生成熱を求める

次の熱化学方程式が与えられています。

① C(固)+ O2(気)= CO2(気)+ 394 kJ (炭素の燃焼熱)
② H2(気)+ 1/2 O2(気)= H2O(液)+ 286 kJ (水素の燃焼熱)
③ C2H5OH(液)+ 3 O2(気)= 2 CO2(気)+ 3 H2O(液)+ 1368 kJ (エタノールの燃焼熱)

求めたいもの: 2 C(固)+ 3 H2(気)+ 1/2 O2(気)= C2H5OH(液)+ Q kJ

解き方

ヘスの法則を使います。エタノールの生成熱Qは、「成分元素の単体(C, H2, O2)→エタノール」の反応熱です。

直行ルートを考えると、成分元素からスタートしてエタノールに至る熱量がQです。一方、遠回りルートとして「成分元素→燃焼生成物(CO2+H2O)」に行くルートと、「エタノール→燃焼生成物」に行くルートを比較します。

成分元素をすべて燃やした場合の合計熱量:
C 2 mol の燃焼:394 × 2 = 788 kJ
H2 3 mol の燃焼:286 × 3 = 858 kJ
合計:788 + 858 = 1646 kJ

ヘスの法則より:
Q(生成熱)+ 1368(エタノールの燃焼熱)= 1646
Q = 1646 − 1368 = 278 kJ

したがって、エタノールの生成熱は 278 kJ/mol です。

2 C(固)+ 3 H2(気)+ 1/2 O2(気)= C2H5OH(液)+ 278 kJ

この計算で使った考え方は「生成熱 = 成分元素の燃焼熱の合計 − 化合物の燃焼熱」という公式にまとめられます。甲種の試験ではこの関係式がよく出るので、しっかり覚えておきましょう。

試験で狙われるポイントまとめ

テーマ 出題のされ方
反応熱の符号 「発熱反応の反応熱は正(+)か負(−)か?」→ 正(+)
熱化学方程式の特徴 「→ではなく=を使う」「状態記号を書く」「係数に分数を使える」のどれが正しいか
燃焼熱の定義 「物質1 molが完全燃焼するときの発熱量」。常に正の値
生成熱の定義 「成分元素の単体から化合物1 molが生成するときの熱量」。正にも負にもなる
ヘスの法則 「反応熱は経路によらない」。2〜3つの式を組み合わせて反応熱を求める計算問題
状態記号 「H2O(液)と H2O(気)で反応熱は異なるか」→ 異なる(蒸発熱の分だけ違う)

試験で間違えやすい5パターン

❶ 熱化学方程式で「→」を使ってしまう

普通の化学反応式は「→」ですが、熱化学方程式は「=」を使います。「→」は反応の方向を示すだけですが、「=」はエネルギーを含めた等式を意味します。試験で「→を使う」は誤りの選択肢の定番です。

❷ 状態記号(固・液・気)を「省略してもよい」と答える

H₂O(液)と H₂O(気)では反応熱が44 kJも違います。状態が変われば蒸発熱・凝縮熱の分だけ熱量が変わるため、状態記号は省略不可です。

❸ 「生成熱は常にプラス(発熱)」と思い込む

燃焼熱は常にプラスですが、生成熱はプラスにもマイナスにもなります。例えば一酸化窒素(NO)の生成熱は吸熱(マイナス)です。「生成熱 ≠ 燃焼熱」を意識しましょう。

❹ 「触媒を使うと反応熱が大きくなる」と答える

触媒は反応速度を変えるだけで、反応熱は変えません。触媒があってもなくても、始状態と終状態が同じなら反応熱は同じ(ヘスの法則)。「触媒で速くなる」と「熱が増える」を混同しないようにしましょう。

❺ ヘスの法則の計算で「引き算の向き」を間違える

生成熱を求めるときの公式は「成分元素の燃焼熱の合計 − 化合物の燃焼熱」です。逆にすると符号が反転します。「元素の燃焼熱が先」と覚えましょう。エネルギー図を描いてルートを確認すると間違えにくくなります。

熱化学 チェック ✔

✔ 発熱反応 = +(正) / 吸熱反応 = −(負)
燃焼熱 = 1molの完全燃焼で出る熱 → 常にプラス
生成熱 = 単体から化合物1mol生成 → プラスにもマイナスにもなる
✔ 熱化学方程式: (→は使わない)/ 状態記号必須 / 分数OK
ヘスの法則 = 反応熱は経路によらない(始状態と終状態で決まる)
生成熱 = 成分元素の燃焼熱の合計 − 化合物の燃焼熱(最重要公式!)

理解度チェック!

ここまでの内容が身についているか、3問で確認しましょう。

Q1

Q1:熱化学方程式について、正しいものはどれか。 → 解答を見る

(1)反応式と同じく「→」を使う
(2)物質の状態記号(固・液・気)は省略してよい
(3)係数に分数を用いることができる
(4)発熱反応の反応熱は負(−)で表す

正解:(3)
熱化学方程式では「=」を使い(→は使わない)、状態記号は必ず書きます。発熱反応の反応熱は正(+)で表します。そして、着目する物質の係数を1にそろえるために分数の係数を使うことができるのが、普通の化学反応式との大きな違いです。

Q2

Q2:ヘスの法則について、最も適切な説明はどれか。 → 解答を見る

(1)反応の速さは経路によらず一定である
(2)反応熱の総量は、反応の経路に関係なく一定である
(3)触媒を用いると反応熱が大きくなる
(4)温度が高いほど反応熱は大きくなる

正解:(2)
ヘスの法則(総熱量保存の法則)は「化学反応の反応熱は、反応経路に関係なく、始めの状態と終わりの状態だけで決まる」というものです。これはエネルギー保存則に基づいています。触媒は反応速度を変えますが反応熱は変えません。温度条件で多少の差は生じますが、「温度が高いほど大きい」というルールではありません。

Q3

Q3:次の2つの熱化学方程式からCO(気体)の生成熱を求めよ。 → 解答を見る

① C(固)+ O2(気)= CO2(気)+ 394 kJ
② CO(気)+ 1/2 O2(気)= CO2(気)+ 283 kJ

正解:111 kJ/mol
ヘスの法則より、C → CO2 のルート(394 kJ)は、C → CO(Q kJ)→ CO2(283 kJ)のルートと等しくなります。
Q + 283 = 394
Q = 394 − 283 = 111 kJ
したがって、CO の生成熱は 111 kJ/mol です。この計算パターンはヘスの法則の最も基本的な形なので、確実にマスターしておきましょう。

まとめ

今回のポイントをおさらいしましょう。

  • 反応熱は化学反応にともなう熱の出入り。発熱反応は、吸熱反応は
  • 燃焼熱は「1 molの完全燃焼で出る熱」で常にプラス。生成熱は「単体から化合物1 molが生成する熱」でプラスにもマイナスにもなる
  • 熱化学方程式は、→ではなくを使い、状態記号を必ず書き、分数の係数もOK
  • ヘスの法則=反応熱は経路によらない。直行ルートでも遠回りルートでも、出発点とゴールが同じなら反応熱の合計は同じ
  • 計算のコツ:生成熱 = 成分元素の燃焼熱の合計 − 化合物の燃焼熱

この分野は一見むずかしそうに見えますが、パターンを押さえれば確実に得点源にできます。甲種の物化は全10問中1〜2問が熱化学方程式・ヘスの法則から出ることが多いので、ここをしっかり仕上げておくと合格にグッと近づきますよ。

Q4

Q4:メタン(CH₄)の生成熱を求めよ。C の燃焼熱394 kJ、H₂の燃焼熱286 kJ、CH₄の燃焼熱891 kJ。 → 解答を見る

正解:75 kJ/mol
生成熱 = 成分元素の燃焼熱の合計 − 化合物の燃焼熱
CH₄ は C 1mol + H₂ 2mol から生成するので:
= (394×1 + 286×2)− 891
= (394 + 572)− 891
= 966 − 891 = 75 kJ
C(固)+ 2H₂(気)= CH₄(気)+ 75 kJ
この「生成熱 = 元素の燃焼熱合計 − 化合物の燃焼熱」のパターンは甲種で頻出です。

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